2021-08-07

ロジウラハーフドマハウス。

秋の足音が聞こえ始めた、ある日のこと。

事務所の電話が鳴った。

話の内容は、見てほしい物件があるって。

声の主は知らないおじさんだった。

とりあえず、アポイントを取り、現場に向かった。

待ち合わせ場所に、おじさんがいた。

徐に、こっちだと言われ、あとを付いて行った。
まだ、僕は、このおじさんが何者かもわかってない。

とことこと歩き、路地を曲がって、少し行った家の前でおじさんが立ち止まった。

おじさんが、鍵をガチャガチャしてる。

僕の目の前に一軒の建物がある。

ここまで、ほぼ事前情報も何もなしだ。

おじさんは誰なのか？なぜ、僕に連絡をくれたのか？どんな物件か？
ということすらも何もわかっていない。

ただ、この建物の玄関の上の船舶照明と、恐らく後付けされたであろう窓の格子が目に入った。

そして、おじさんの、この物件を説明なしで見て、お前はどう思うよ？的な試されている感じ、
と同時に、お前なら、わかるだろ？というおじさんの得体のしれない自信のようなモノも感じていた。

だからかなんだかわかんないけど、とても、いけそうな気がした。いい物件に出会える気がした。

あとから聞いた話。

おじさんは、僕のことをインターネットで見つけて、すごく知ってくれていたそう。
おじさんは、僕のやってきたこと、やっていることなんかをすっごく知ってくれていた。

今から思うと、その自信だったんだろうね。

きっと、お前なら、わかるよっていう。

ドアが開いた。

中を見た瞬間に、僕の口からマスク越しにいいっすね～という声が漏れた。

聞くと、路地裏のボロボロの家を買って直したそうだ。

いろいろ、お話を聞かせていただいた。

おじさんは、こういう不動産を購入して、リノベーションして、新しい価値を加えて、賃貸しているそうだ。それだけをされているわけじゃないんだけど、当然、事業としてされていると。

そういう話はたくさんあるじゃない？よく聞くじゃない？

これくらいで買って、これくらいで直して、これくらいで貸せたらオーケー的な。

ドライ。

でもね、この建物を見たときに、それだけじゃない、なんかわからん、おじさんの愛のようなモノを感じたんだな。

建物への？ここに入る人への？それはわからない。

今思うと、建物への愛かもね。

建物をレスキューして（潰されるかもしれない建物を買って）直して、誰かに使ってもらえて、初めて、建物は建物足り得るから。

そして、同時に、おじさんがどこを目指しているのか？何を目指しているのか？そんなことは僕には到底わからないけど、なんか、おじさんの夢のようなモノを朧気ながらに感じた気がした。

路地裏物件事業とマンション事業のどちらもされている中で、路地裏物件事業の方がライフワークとライスワークでいうところのライフワークの気がした。こういう事をしていきたいっていう想いを感じた。

おい、川端、路地裏物件事業って何だ。

路地裏に佇む古い物件を再生(直して、誰かに使ってもらうとこまで含めて)する話をされているとき、キラキラして話されているように見えた。

僕は思ったんだな。

おじさんの夢の先が見てえなって。手伝いてえなって。

ここを誰かに使ってもらって、その先にまだまだ、おじさんの夢の続きは無限に広がっている気がした。

今もなお、僕はそんなに詳しく、おじさんのことを知らない。

これを書いている日、とんかつ奢ってもらったけど。

でもさ、なんだかわかんないけど、おじさんとの付き合いは短く終わる気がしていないんだ。

だから、ゆっくり、おじさんのことも聞かせてほしいなって思ってる。

おじさんがどう生きてきて、これから、どう生きていくのかとか。

そしてね、そんなに詳しく知らないおじさんの夢に近づくための力に、俺はなりたいなって思うんだよ。

出会ってから、まだ3回しか会ってないけどさ、共感できたんだな。

ああ、おじさんと僕の話？

違う違う。

おじさんと僕が紡ぐ、あなたと建物の話だよ。

この話は、まだ見ぬ未来に繋がる、ほんの始まりの話。

あなたと建物が出会うきっかけになる始まりの話なんだ。